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祖父の姿はない。すでにいくつかスイカを食べ、祭りの準備をしに行ったのだ。地域の人々に指示を出したり、縁日の方を見に行ったりと、なかなか忙しそうだ。
その姿を蒼志はかっこいいと思いながら見ている。今の彼の夢は、お祖父ちゃんのようになることなのだ。
だから、じっとその姿を追う。本当は手伝いたいけれど、掃除とは勝手が違う。子供なのだから我が儘に行けばいいところかもしれないけれど、利口な蒼志はそうしない。邪魔になることがわかるから、こうして、自分も手伝えるようになったときのために、何をするかを毎年毎年観察している。
中学生くらいになったら、と思っていたけれど、来年から、もしかしたら、もう手伝ってもいいかもしれない。やることはだいたい覚えているし。
そう思った蒼志だったけれど、今日は手伝いに参加できない理由がある。この後始まる祭を自分も回る約束がある。だから祭りまでに、体力を温存するため、少し休まないといけない。張り切りすぎたせいで、疲れが眠気へと変化している。
スイカを食べ終えてお腹が膨れると、いよいよ我慢の限界だ。
蒼志は食べ終わった西瓜の皮が乗った皿を台所に下げて、そのまま手を洗って、トイレを済ませた。それから、手伝っている人達に飲みものを配っていた祖母が戻ってくるのを、頑張って待った。五分ほどだったが、睡魔に襲われている蒼志には大変だった。
「おばあちゃん、五時くらいに起こして」
「はいはい。起きたら浴衣を着ようね」
「うん」
やっとお願いを伝えられた蒼志は、のそのそと階段を上って、布団も何もひかずにそのまま眠ってしまう。限界だったのだ。
それがわかっていたのだろう、少ししてから祖母が来て、行き倒れたように眠るその姿を見て笑い、おなかを冷やさないようにとタオルケットを胸から膝までかけてやり、つけっぱなしの面をとってやった。
その面を、持ってきた手拭いを畳んだ上に、大事に置いて、窓を開けてから、祖母は部屋を後にした。
寝ている蒼志の髪の毛を、窓から入ってきた風が揺らした。
気のせいか、面が動いたようだった。
だが眠っている蒼志は気づくはずもない。祭のことで、寝ている頭もいっぱいなのだから。
○
目を覚ました蒼志が先ずしたことは、寝過していないかと時計を見ることだった。
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