第一幕

14/36
前へ
/142ページ
次へ
 籤で引いて当てたのを、買ったと勘違いしたのかもしれない。疲れが残っているから、少し寝ぼけたんだ。恥ずかしい。言わないでおこう。それに、こんなものが普通のお面屋においてあるわけないよね。  蒼志が持っていたのは、自分が頭に付けているのと同じ、しっかりとした面だった。キャラクター物のプラスチックの安物ではない。こんなものが普通のお面屋にあるわけがない。だから、この籤で当てたんだ。五百円で手に入ったなんて、今日の僕はついてる。そうプラスに考え、納得した。 「どうしたの?」 「な、なんでもないよ。そこのくじ引いたら当たったんだ」 「すごい、ラッキーだね」 「これ、あげる」 「え、悪いよ。お金払うよ」 「いや、その、ほら、偶然当たっただけだし、僕にはこれがあるし、その、もらってくれると、嬉しいんだけど」  ぐっと、面を兎鞠へと突き出す。じっと兎鞠を見つめるその目は、笑ってしまう程真剣だった。  だが兎鞠は笑わない。その目をじっと見つめ返して、しばらくじっと見つめ合う二人。  普段の蒼志ならば、五秒ともたずに、いや二秒ともたずに目を逸らしていたことだろう。そうなったら、おそらく兎鞠は譲らなかった。彼女は真面目で、少し頑固だから。それ故に彼女は凛としているのだ。  そして、真面目が故に、人の気持ちに、しっかりと答えるのだ。 「……わかった。ありがとう」  お面を受け取り見つめて、頭に当ててみて、何処が良いかを吟味する。気に入った場所を見つけて結んだ。  片方は簪が輝き、片方は狸の面がつけられた兎鞠は、子供らしい可愛らしさと、女性的な綺麗さを併せ持っている。  微調整を終えると、兎鞠は笑ってみせた。 「ほら、お揃い」  その笑顔と言葉に、蒼志は顔を真っ赤にして、俯いて「うん」としか言えなかった。  だから、兎鞠の方も顔を赤らめているなんて、知る由もない。 「た、たこ焼き、食べに行こうか」  兎鞠の方を見ずに、たこ焼き屋台を指差した。 「うん、そうだね」  蒼志の方を見ずに、努めて冷静にそう答えて、並んで歩きだす。  色んな屋台を回る二人を、屋台のおやじは冷やかし、通りかかる人は微笑みを浮かべた。  面の位置は、蒼志とは対照になるようにつけられていて、傍から見てとても仲が良さそうに見える。  小さなカップルを見つけた人は、誰もが微笑みを浮かべてしまうのだった。 ○  祭の喧噪が遠くに聞こえる。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加