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少し前に、蒼志と兎鞠は祭を後にしていた。二〇時を過ぎたら帰ると兎鞠が親と約束をしているため、蒼志は家まで彼女を送っていた。
兎鞠の家は、祭の行われていた場所から、小学生の足でも一〇分はかからない距離にある。
その数分の間、二人はあまり話さなかった。
一言二言話しては黙ってを繰り返す。つい数時間前までは、何を話して良いかとあたふたしていた蒼志だったが、今はもう、話すことが浮かぶくらいには落ちついている。それでも会話は少ない。
兎鞠の家に着くと、残念な気持ちと、無事に遅れたことへの安堵で変な気分になりなった。
家のドアの前に立って、兎鞠が振り向く。
「今日は楽しかった。ありがとう」
「ぼくも、楽しかった。ありがとう、来てくれて」
「お面、ありがとう」
「うん」
「大切にするね」
「うん」
後はばいばいを言うだけで終わりだが、どうしてか、兎鞠は少し黙って、ドアの向こうに行こうとせずに、その場に立ったままだった。もちろん蒼志も帰ろうとなどせずにそこに立っている。ただ、蒼志の方は勇気を振り絞っている最中だった。
「あ、あのさ」
少し大きな声が出てしまい、しかも裏返ってしまい、恥ずかしくなって次の言葉が出なくなってしまう。せっかく振り絞った勇気がしぼむ音が聞こえてきそうだった。
兎鞠が不思議そうに見つめているのに気がつき、だけど「また遊ぼう」の一言が出なくて、情けなくて、蒼志は力なく笑った。
「えっと、……おやすみ」
蒼志がどうして自虐的な笑みを浮かべたのか、兎鞠は分からなくて頭の上に疑問符が浮かぶ。だけど、流石に兎鞠にもその笑みの意味はわからず、なんだかちょっと寂しそうだなと思ったくらいで、手を振りながら、少しでもその寂しさを払拭できるよう、明るい調子で言った。
「おやすみ。また何処か行こうね」
そして、家へと入っていった。
また何処か行こうね。その言葉に蒼志は嬉しくなったけれど、落ち込みもした。それは、自分が言おうとした言葉だ。自分から言うはずの言葉だったのに、言われてしまうなんて恰好悪い。知らず蒼志は溜息を漏らして、とぼとぼと道を引き返した。
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