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昔々の話。
ある所に、その周辺では一番大きい村があった。
村の人間は皆明るく、活気があったという。
その村の村長の娘は、男なら誰もが惚れるくらい美しく、だというのに誰にでも親しく接し、男の子達と元気に遊ぶような、姐御肌な女であった。
ある日、村長の娘は、恋に落ちる。
その相手は、なんと妖怪であった。
尻尾を九つももった狐。人間の姿にも化けられ、人間が好きな、妖怪のなかでも変わりものとされていた、九尾狐だ。
山道で娘が足をくじいて動けなくなっていたところ、たまたま通りかかった狐は、娘の怪我を診てやり、塗り薬を塗ってやる。それがきっかけで、二人は出会った場所で逢瀬を繰り返し、そして恋に落ちていったのだ。
その最中、自分の愛する男が妖怪だと、娘は気づいた。
しかし娘は、自分が恋に落ちたのが九尾狐だと知っても尚、決して離れることはなかった。
九尾狐は言った。「怖くないのか?」と。
娘は言った「貴方と離れる方が怖い」と。
二人は甘い時間を過ごしていた。何もかもが甘かった。触れあう手も、言葉も。
そして、考えも。
娘は、どんどん美しくなった。いや、見た目は変わらなかったかもしれない。だが、元来の美しさに、恋を知ったことによる淑やかな部分が合わさり、周りの人間は誰もが彼女の変化に気がついた。
いったいどうしたことか。それが気になった村長は、娘の友人の男に、決まった時間にいなくなる娘の後をつけさせた。
そして、事態は露見してしまう。
二人の逢瀬は、男に目撃されてしまうのだ。
そうとは知らずに九尾狐はいつもの場所で、娘を待っていた。するとそこに、矢の雨がふってきた。九尾狐は矢に撃たれ、傷だらけになりながらも、どうにか逃げた。
こうして二人はもう引き裂かれた。
娘は村人に捕らえられ、閉じこめられた。何を言おうと誰も聞いてはくれなかった。
だが彼女は隙を突いて逃げ出した。逃げ出さなければいけなかったのだ。
彼女の腹には、九尾狐の子供がいたから。
もともと細身であるから、腹の膨らみは目立ってしまう。隠し通すことは出来ないと思った彼女は、見張りの目をかいくぐって、どうにか逃げようとしたが、逃げ切ること叶わず、捕らえられ、ばれてしまう。村人からは石を投げられた。それでも必死に腹を守った。
だが、努力虚しく、彼女は処刑されることになる。
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