第一幕

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 暑さとは違う、冷たい汗をかいている。体が妙に冷たくて、血が通っていないみたいだった。息をすると、まるで今まで死んでいたかのように、少しずつ体温が戻ってくる。  とりあえず体を起こそうとしたが、浴衣が肌にくっ付いてしまって動きづらい。どうにか先に帯を外して、浴衣を脱いだ。腹や腕に触れてみたら、ひんやりとしていた。面をしたまま寝たから、頭も群れて気持ち悪い。外して、昼間祖母が用意してくれた手拭いの上に置いた。  起き上がって、改めて深呼吸をしようとしたが、立ち眩みで少しよろける。どうにか治まってから、息を吐いて吸って、ようやく落ち着いた。  時計を見ると、二二時を三〇分以上も過ぎていた。大体二時間くらい寝たらしい。だがもちろんまだ眠い。帰って来た時よりも幾分頭と体が冷えたとはいえ、疲れはまだ残っている感じがする。それに、普段ならもう眠っている時間だ。  蒼志は脱いだ浴衣と帯を持って下に降りる。祖父母の姿は見えない。確か去年は遅くまで宴会をやっていたっけ。思い出し、家には自分一人なことを自覚したら、なんだかお腹が減ってきた。何か食べるものはあるだろうかと台所に行こうと思ったが、持っている着物を洗濯機の方へと持っていかなければいけないし、何よりシャワーを浴びたい。そっちが先だ。  風呂場に向かい、脱衣所にある洗濯機に浴衣を放り込む。そこで喉が渇いたなと、一度台所に行って水を一杯一気飲み。失った水分を補給して、風呂場へと引き返す。風呂の戸を開けようとして、コップを持ってきてしまったことに気がついてまた台所に。少し寝ぼけている。  汗がまだじわりじわりと滲んできて気持ち悪い。蒼志は湯を沸かさずに、冷たいシャワーを浴びて、温い湯に浸かる。  シャワーを浴びて目が覚めて、湯船に入りながら今日のことを思い返す。そして、溜息をぬるま湯に溶け込ませた。ぶくぶくと泡になる。  それから、夢のことを思い出す。  あれはなんだったんだろう。妙に生々しかった。まるで本当に体験した様な火の熱さ、引っ張られる力の強さ、腕や足に食い込む指、紐の痛み、そしてなにより――、 「……」  なにより、この胸に残っている、どうしようもない悲しみ。いったい何だったんだろう。
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