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愛する人と会えず、その子供までも許されず、絶望の内に、彼女は処刑された。
しかし事態はそこで終わらなかった。
首のなくなった体から、おぞましく蠢く黒いものが溢れだし、それはたちまち空を覆い、おぞましい異形の形となって、次々と人を喰い、殺し始めた。
娘の恨み、絶望が、お腹の中の妖怪の子の力と混ざり合い、強大なものになってしまったのだ。それは、恐れず見れば、狐の様にも見えたという。
怨念の塊が村人を殺しただけでは留まることを知らず、そのまま都までも飲み干そうとどんどんと侵食していく。たくさんの陰陽師がそれをどうにかしようと試みたが、どうにもならなかった。
人々が全てを諦めた時、一人の男が現れた。
その男は怨念の塊の前に悠然と歩き出て、両腕を広げた。まるで迎え入れようとするかのように。
怨念が気づいたのを確認して、面を被ると、優雅に舞いを踊り始めたのだ。
それは、誰も見たことがない、だが、誰をも魅せる舞であった。
吸われるように、怨念が徐々に徐々に、面のなかへと消えていく。渦を巻き、吸いこまれていく。
舞が終わると同時に、都を半壊まで追い込み、多くの人の命を奪った怨念は、全て面の中に吸い込まれてしまった。空はいつの間にか晴れ、落ち始めた太陽に、崩れた家が照らされ、まるで夢を見ているようだった。
舞を踊り終えた男は、その夕日に消えいるように、何処かに行ってしまったという。
こうして、村が数カ所消え、都が半壊しただけで、事態は収拾されたのだった。
これが、伝わっている昔話。昔話とは往々にして尾ひれがつけられ、大きく美化されたりするものだ。全て鵜呑みにしてはいけない。
だがこの話、実際に起きたことだというのは、間違いはない。
何故なら、ここが始まりだからだ。
物語は、ここを始めとして、一息に年代を飛ばし、現代、二十一世紀へと舞台を変える。
長い時を経て、妖怪たちが、動き出す。
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