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まだ午前中だというのに、日差しがまるで針のように肌に突き刺さる程の、良く晴れた日。暑いからと半そでやタンクトップなどを着ていると、肌がどんどん紫外線に侵食され、見る見るうちに肌は真っ黒になる。だからといって長袖なんぞ着てしまったら、暑くて倒れてしまう。どうにも上手くいかない季節というのが夏だ。暑くてイライラしてしまい、無用な争いが生まれるのも、夏なのである。
蝉があっちでこっちで命を削って大音声で鳴き散らし、熱を持った地面から立ち上がる陽炎と相まって、まるでどこか違う世界に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥りそうになる。
そんな中を、アイスを食べながら、油ノ本蒼志は歩いていた。重たそうなリュックサックを小さな体で背負いこんで、大きな麦わら帽子を被り、暑さに負けずまっすぐに前を向いて歩いていた。
歩くと言っても、平坦な道をではない。
階段を上っていた。
大人なら、この暑いのに上ろうとはしないであろう長い石階段を、彼は一歩一歩上っていた。
上り終えると、鳥居が蒼志を出迎えてくれる。かなりの年代物だが、それ故に威厳があり、まさに神のおわすところ、といった雰囲気だ。
鳥居の奥には狛犬、ではなく、狛狐が一対鎮座している。鳥居同様、威厳を放っている。
社殿は大きくはないが、立派な作りをしていて、古いのに手入れが行き届いているのが分かる。廃れた神社ではない。
周りに生えている木々のおかげで、風が吹く度に葉の擦れる音が聞こえ、ただ風に吹かれるよりも涼しく感じる。実際、日陰が出来ている部分はとても涼しい。
蒼志は一度立ち止まって息を吸った。下の空気より美味しい気がして、上って来た達成感と相まって、自然と頬が緩んでいた。はああっと一気に息を吐いて、長くない参道を歩いて社殿の前に立つと、お辞儀をした。
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