第一幕

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 一階建ての日本家屋に、ちょこんともう一つ小さな家が乗っかっているような外見の家が、繋護の家だ。玄関の引き戸を開け中に入り、三和土で靴を脱いで上がって三歩ほどですぐにまた引き戸があり、そこが居間になっている。居間の奥は台所で、隣は寝室。そこには入らず右に行けば縁側に出られ、縁側を通って端の方に行けば、二階への階段がある。繋護の家に来た時、蒼志はいつも、その階段を上がった先の小さな部屋で寝泊りをしている。物置としても使っているため色んな物があるが、その雑多な感じが秘密基地のようで、蒼志は気に入っていた。  そこにリュックを置いて、蒼志は下へと戻り、台所に向かった。 「ばあちゃん、来たよ」 「そうちゃん、よく来たねぇ」 「何か手伝う?」 「大丈夫だよ。じいちゃんの手伝いしてやんな。終わったらスイカ切ってやるから」 「うん、分かった」  決してスイカ目当てで手伝うわけではないが、蒼志は少しやる気が出た。  振り返って、居間で座ってお茶を飲んでいる祖父の元へ行く。 「今年も蔵の掃除?」 「そうだな。先ずはそこからだ。手伝っとくれ」 「わかった」  静かにやる気を見せている蒼志の顔を嬉しそうに見つめ、繋護はゆっくり立ち上がり、玄関へ向かった。蒼志がそれに続く。  蔵は社殿の裏にある。小さな蔵だが、そこには祭事の時に使う物や何に使うかいまいち分からない物まで色々としまわれている。毎年最初のお手伝いはこの蔵の掃除と決まっていて、半日かけて埃を取り蜘蛛の巣を払いと大忙しだ。小学校一年生の頃から歳を重ねるごとに、出来ること、手伝えることが増えていって、それが蒼志には面白かった。小学五年生になって、運べるものが増えたりして、自分が出来ることが増えていってるのが一番わかるのが、蒼志にとってはお祖父ちゃんのお手伝いなのだ。  運び出すものは運び出して、隅の方に出来た蜘蛛の巣を取り払い、埃をとる。しっかりと絞って水分を出来るだけ飛ばした雑巾で、丁寧に床板、棚、木箱等を拭いていく。毎年こうして掃除を手伝っているおかげで、大分手際が良く、慣れているからといって手を抜かない職人気質な掃除をする。一生懸命に掃除したあとの、綺麗な蔵を見るのが蒼志は好きだった。  一心不乱に丁寧に掃除をしていると、いつも集中し過ぎて周りが見えなくなるのだが、そのとき蒼志は、ふと手を止めた。
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