第一幕

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 何か、視界の端で光っているものを見た気がしたのだ。  気になって、その方向を見ると、暗いとはいえ日中、雨戸も開けているから、陽の光だって入っているなかで、電気の光とも違う、不思議な光がうっすらと見えたのだ。  なんだろう。ぼんやりとした、淡い光だ。眩しくないし、なんだか、柔らかい。  蒼志は光の方へと近づいてみる。棚の中段にあったそれは、他の物と変わらない木箱だった。正方形よりは長方形に近い形の、陶器なんかが入っている箱の半分くらいの薄さのものだ。光は、そこから漏れていた。漏れているというよりは、その箱自体が光っているように見える。  蒼志は少しわくわくしていた。光る木箱なんて初めて見たからだ。  中にはいったい何が入っているんだろう。  好奇心の赴くまま、箱の蓋を開けてみる。しっかりとはまっているというのもあるが、ゆっくりゆっくり、慎重に開けていく。どんなものが入っているのか、蒼志には想像が出来なかった。だからこそとてもわくわくした。  やっと蓋がとれる。取れた蓋は、光を失っていた。光っていたのは、どうやら中の物らしい。  蓋を視界から避けてみると、箱の中に入っているものが見えた。  それは、お面だった。  狐の顔をかたどったお面。白地に目や口周りが隈取りの様に赤く塗られている。頬のところにも、髭のように塗られている。  そのお面が、光っていた。眩しくなく、優しく、暖かく。 「わああ……」  思わず声が出てしまう。  これは何なんだろう。どうして光っているんだろう。大事にしまわれていたから、大事なものなんだ。大切に扱わないと。  唾を飲み込みごくりと音の鳴らして、持っていた蓋を丁寧に箱の横に置いて、それから、角度を変えて観察して見る。どういう仕掛けかまったくわからない。  蒼志はきょろきょろとあたりを見回して、入口の近くにいる繋護を見つけて、走り寄った。 「じいちゃん!」 「どうした」 「ちょっと来て!」  手を取って、急かしてお面の傍に連れていく。 「これ、これって、あれ?」  すると、もうお面は光っていなかった。  そうして見ると、光るはずがないと思えるくらい、何も変わったところのないお面だ。そもそも、お面が光るなんてことがあるわけがない。それは、小学五年生になった蒼志にだってわかるけれど、それでも確かに光っていた。  角度を変えて見てみたが、やはり光はもう何処にもない。
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