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02.
館の中心には「円卓の間」と呼ばれる広間がある。
かつてはマスターと五人の仲間が会議室兼リビングとして使っていた。広い室内には六人がけの巨大な円卓が置かれ、ドアから見て左側の壁にはこれもまた重々しい木製のキャビネットが設置されている。
右側にはレンガ作りの壁型ペチカが作り付けられていた。
ガラス窓の外が暗くなり始め、ペチカに熾になって残った薪とレンガに蓄えられた熱が、忍びこむ冷気にだんだんと押し負け始めている、初冬の夕方。
キキさんは円卓の自分の席に座り、綴じた書類をめくっていた。
その表情は浮かず、しばしばため息を付いている。
キキさんは、30歳前後の人間の女性を思わせる見た目で、長身でスレンダーな体型をしている。灰色っぽくも黒っぽくも見える長い髪を、頭頂は飾り気のないカチューシャでまとめ、さらにうなじの上あたりで色気のないリボンで縛っていた。
特徴的なのはその耳で、長く尖り、髪と同色の羽毛に覆われている。また、専用のスリッパを履いているが、そのふくらはぎには鱗が見え、足先には鋭い蹴爪があった。
レンガ色の厚手のブラウスと紺のロングスカートは、上質で丈夫な生地から作られ、その上に肩まで覆う白いエプロンを着用している。
館の家政。それも掃除から帳簿付けまで全てをこなす彼女の、それは仕事着だった。
浮かない顔のキキさんは、帳簿付けの時にだけ付けるメガネを人差し指で軽く押し上げ、一度手元の書類から目を離した。
円卓の正面に置かれた一際立派な椅子を見る。かつてそこに座っていたマスターは、しかし今はもう、居ない。
表情を引き締めもう一度、書類の数字を指でなぞった。
そしてキキさんは再びため息をついた。
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