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 放課後、すぐに家に帰る気になれず、真由を待って教室で本を読んでいた。卓哉の家から持ち出した本だ。  相良教授の本は読み辛かった。普段漫画しか読まない理沙には、淡々と書き連ねられている挿絵もろくにない本は、抑揚の無い朗読と同じで要領を得ない。 幸い、卓哉がカラーマーカーで印をつけていた部分だけは、重要なのだと理解出来る。まるで試験勉強みたいだ。宗教的な狼男の歴史に関しては、理沙はまるまるすっ飛ばした。文章の半分以上がカタカナで読む気になれなかったのだ。  マーカーの導きで、狼男の伝説に出てくる『銀の弾丸で死ぬ』『狼男に噛まれると、狼男になる』『満月の夜に狼に変身する』と言うのは、小説の創作だと知った。その記述の後に、『現代の狼男』と走り書きがあり、マーカーで別のページを指定している。そのページをめくれば、切り取られていてなかった。隣のページには、数人の白衣を着た男性が並んだ写真が印刷されてあった。下に名簿が載っており、中央に立っているのが相良教授らしい。清潔そうな、優しい顔立ちだ。写真にアジア人は二人しかおらず、もう一人のアジア人を見ると、顔に見覚えがあった。担任の野洲光孝だ。  彼は俊彦の助手をしていたと言うから、一緒に写真に写っていてもなんらおかしくない。卓哉のメモから、光孝は何か狼男に関して知識があるのかもしれない。  そう思い至り、理沙は真由を待つのをやめ、光孝に会いに行った。  職員室を訪ねたが、光孝はいない。 彼が受け持っている英語クラブの場所は、山手の別館にある。校舎から少し離れた小高い山を越えねばならず、普段の理沙なら別館に行くまででバテてしまうが、獣の力を得た今は、難なく上っていけた。辿り着いた別館はひっそりしていて、クラブ活動を行っている様子はない。くんくんと匂いを嗅げば、覚えのある香りが残っていた。人の気配がする。建物からではないので、理沙は別館の裏へと回る。  と、そこで理沙は咄嗟に身を隠した。
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