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「お椀!!・・・あ。」
「はくたくさま、『ん』が付きました!丁の勝ちです!」
しまった~
『ん』が付いてしまった。
うーん、日本語のしりとりは苦手だ。
膝の上の丁は鈴の音のような声で笑っている。
「ふふふっ、丁は強いな~」
「しりとりは得意です!」
丁は、変わった。
出会って間もない頃は僕を、否、人を怖がっていたため、常に怯え、口数も少なかった。
そんな丁が、今では笑顔で走り寄って来て足にしがみ付いたり、可愛らしい声を上げて笑ったりするようになった。
「はくたくさま!」
膝の上の丁がぴょこぴょこと腰を揺すっている。
「ん?もう一回やるかい?」
「はい!」
丁としりとり二回戦目を始めようとしたとき・・・
「あ、」
遠くで、運び車の音が聞こえる。
「あ、はくたくさま!卵屋さん来ました!」
「本当だ、ちゃんと来てくれたね。行こうか。」
丁の手を引いて、運び車に近づく。
「おはようございます、卵屋さん!」
「おはよう、坊や。遅れてごめんね。はい、どうぞ。」
青年は丁に詫びると、卵の入った籠を丁に渡した。
籠を受け取った丁は中を覗き込んで満面の笑みを浮かべている。
「おはよう、いつもありがとうね。」
僕は青年にお代を渡す。
「白澤様、おはようございます。いえ、とんでもございません!遅れてしまい、申し訳ありませんでした。」
「気にしないでいいよ~朝は忙しいもんね~」
「ありがとうございます。では、また来週お伺いしますね。」
青年は丁寧に会釈し、元来た道を戻って行った。
手を振って彼を見送っていると、着物の袖をくい、と引っ張られる感覚に気付く。
下を見ると、丁が着物をきゅっと掴んでいた。
その愛らしい仕草にくすりと笑い、丁を抱き上げた。
「お腹空いたね、丁。朝餉は卵のお粥にしようか。」
「はい!わたしもお手伝いします!」
「ありがとう、丁は偉いね~」
腕の中で張り切る丁に笑みが零れた。
丁、今日も楽しい一日になりそうだね。
終
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