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「不審者が不審者をやっつけるなんて、笑える」
カナはひとりでウケている。
「笑うな。殺し屋はもうたくさんだ」
早足で歩きながら、来た道を戻る。
「どこ行くの、オジサン」
「美咲を探す。殺し屋に狙われているのが俺のせいだとすれば、なんとしても助けなきゃ」
「ほうほう、ストーカー愛ってやつですかい」
確かに美咲のことは愛している、ような気がする。
「でも、どうやって探す気? 美咲さんがどこ行ったかもわからないのに」
「ひとつだけ心当たりがある。付き合ってた頃の記憶かもしれないが、美咲は休日になると、よくひとりで江ノ島へ行っていたんだ。野良猫に会うために」
「江ノ島? 海行くの!?」
カナの表情が、ぱあっと明るくなる。
「おまえを連れて行くわけないだろうが」
ふたたび、マンションの前まで戻ってきた。
美咲と男が住むマンション。
だが、なぜか俺を引き寄せる。
マンションの前に停めたバイクにキーを差し込み、エンジンをかける。
夏のねっとりした空気を、1300ccの排気音が切り裂いた。
腕時計を見ると11時半。かっとばして、江ノ島まで1時間半くらいか。
美咲が見つかるかどうかは分からないが、少しでも可能性があるなら行ってみる価値はある。
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