プロローグ 避難

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「さっき他の人から聞いたんだがこの先にある学校が避難所になっているらしい。そこへ行こうと思っている。君も一緒にくるか?」 「本当ですか?助かりました」  よかった。人のいる場所なら安全だ。彼は息子の手を握る女性に「彼も一緒に行くそうだ。」というと、彼女はこちらを見て「よろしくお願いします。」と微笑んだ。 「君、家族はどうしたんだ?途中で別れたのか?」  その言葉ではっと息を飲んだ。携帯を取り出すと案の定着信履歴が実家からの着信でうまっていた。すぐにかけると母の声がした。 「もしもしかあさん?」  大丈夫だよと言おうとしたが怒声でそれどころではなかった。 『なんで電話に出ないの!心配したじゃない、いまどこにいるの』 「ごめんかあさん。いまはサンフランシスコの郊外にいるよ。ここは全然静かで安全そうだよ。詳しい場所はまだ分からないけど近くに学校があって避難場所になってるみたい。そこに着いたらメールするよ」 『本当に心配したのよ。ほんとは今すぐにでも連れ戻したいけどそっちに行く道はどれもダメなの。ごめんなさい』 「大丈夫だよかあさん。心配しないでまた連絡するよ。じゃあね」  電話を切ると男から、「お母さんを心配させるなよ」と言われた。  避難所には思った以上に人がいた。てっきりこの近くの人は避難していないと思ったが、人がいるところの方が安全と感じるらしく、怪我人の手当てなどをしていた。  避難所に入った僕は親子と別れ、知人がいないか探したがそれらしい人はいなかった。  探している途中で目についたのはラジオを聴いている人だった。何人かに声をかけたが、なにも聴こえないらしい。テレビも映らないと聞いた。噂によると、軍による妨害電波が飛んでいるらしくそのせいで通信ができないらしい。  おかしい。さっきまで電話ができていたのになんでテレビがつかないんだ。僕は携帯を開き、実家へかけようとしたが繋がらなかった。もしかしたらここら辺の地区だけで起こっているのかもしれない。それかさっきまではその妨害電波が弱かったのだろうか。  その夜は寒かった。避難所では暖かい飲み物と軽食が渡された。体育館では一人一枚毛布が手渡され、少しでも暖まるようにと近くの人と集まって寝ることになった。リュックは枕として頭の下に置いた。これなら誰かが触ってもすぐに気づくだろう。
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