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闇色の衣が眼前へと迫る。
背丈は山のように高く、見上げてもその顔を窺うことが出来ない。
そもそも、ゆらりゆらりと不気味にはためく黒は、幽霊のようにその中身の存在を感じさせなかった。
黒衣と対面する少年・赤羽 明仁(あかばね あきひと)は、後ずさろうと意識した。
意識には上るのだが、体はその意に反して全く行動を起こさない。
いわゆる射竦められた状態、である。
――、――――。
黒衣が何かを言っている、と感じた。
言葉の意味は聞き取れず、顔が見えないので口の動きから内容を読むこともできない。
そもそも直感だけであり、その音声が本当に言語であるのかすら、明仁には判別できなかった。
世界が赤い。夕陽の赤でも紅葉の赤でもない、ただべた塗りの赤が一面に広がる。何故そのような場所にいるのか明仁には理解できていない。とにかく、世界は赤かった。
初めはゆっくりと、次第に早く、世界が回り始める。地球の自転云々がというのではなく、視覚的に回っているのだ。ミキサーに撹拌されるが如く、回って、回って、世界の赤と衣の黒が混ざり合う。
混ざり合う色はやがてお互いを一つとし、ムラのない暗褐色、果ては暗黒へと転じていく。やがてそれが完全な黒に包まれて幾時か、ようやく明仁は目を覚ました。
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