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そこは赤い世界でも黒衣の巨人のいる空間でもなく、見慣れた自分の部屋であった。閉められたカーテン越しの薄明るい光がほのかに差し込んでいる。
「……夢、か」
目覚めから僅かの時を挟んで動き出した思考が、ようやく現状を理解した。
明仁は自室のベッド上で目覚めを迎えた、それが事実である。先ほどまでの奇妙な世界や存在は、現実ではない。
明仁はのそりとベッドから這い出ると、片手でまだ眠い目をこすりながら、もう片手ですっとカーテンを開けた。既に高い位置で煌々ときらめく太陽が、容赦なく寝ぼけ眼の明仁を貫いた。
「うっ……!」
ほんの一瞬、強い白光が網膜を焼く。黒に赤に白、なんとも一色を映すのが好きな瞳である。もっとも、前二者は実際の視覚ではなく夢中の感覚であるわけだが。
明順応によって徐々に視力を取り戻すと、明仁はベッドの傍らにある時計へと目をやった。
十二時十五分。
その意味するところは考えず、数字だけを記憶に刻むと、明仁は再びベッドに仰向けで転がった。陽は高く天気も良いが、だからといって特段何かすることがあるわけでもない。厳密にはやるべき事がないわけではない、むしろすべきであろう事があるのだが、今の彼にはどうしてもそれが優先事項であると考えられなかったのだ。
「もっかい、寝るか……」
十分な睡眠を取った後であるにも関わらず、目を瞑ると睡魔はすぐにやってきた。眠りに落ちる直前の浮遊感にも似た心地よい感覚を得ながら、明仁の意識は再び虚無へと溶けていった。
窓の外では、今日もごく普通の日常が繰り広げられている。明仁の部屋は、そんな日常の流れから切り離され、時を止めているようにも見えた。
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