Wake up

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私の名前は浦島……いや、本名よりもドクター・ウラシマと呼んでいただこう。皆にはそう呼ばせていた。 私は自分の名前が嫌いだ。有名な昔話の登場人物と同姓同名なのだが、それ故に苦労もした。しかしそれ以上に気に入らないのは、人が生まれ出でて初めて獲得するものに関わらず、名前とは自分の意思を全く反映することが出来ないものであるということだ。 決して、名付け主の親を恨んでいるわけではない。単純に、自らの手でどうにも出来ない、儘ならなさが納得できないのだ。自分が得るものは自分で掴み取ってこそのもの。そうだとは思わないか。 発明家という道を選んだのも、そういった思いがあってのものだ。自慢ではないが、私は若くして才能を開花させ、様々な発明品で世に貢献してきた。金にも名声にも興味はなかったが、自らの発明で得たそれらを手にすること自体は決して悪い気分ではない。 ……失礼。話を戻そう。 かくして世紀の発明家として世の注目を集めに集めた私であったが、どうしても抗えないものがあった。大多数の同業者が抱えているであろう不安──老いである。 どれだけアイデアが浮かんでも、それを完成に漕ぎ着けるためには莫大な時間と労力を要する。そもそも頭の中まで老いてしまえば、そのアイデアすらも浮かばなくなるかも知れない。 私はそれがどうしても許せなかった。人類の誰もがまだ踏み入れたことのない叡智、それを目にする前に死を迎えたくない。だが、流石の私も人を不老不死にする発明は出来なかった。 考えに考え、出した結論はこうだ。 発明家としては癪だが、よくある話だろう。肉体を仮死状態のまま永久保存し、さらなる技術が存在するであろう未来世界に不死者として復活するというものだ。不死と言っても、生ける(リビング・デッド)ではないぞ。衰えぬ肉体と脳を以て、永遠の時を発明に捧げたいのだ。 幸い、冷凍保存の技術と必要な維持費は手元にあった。 だが問題はまだ残る。この保存法は、自らの手で解凍が行えないのだ。なんせ本人は仮死状態で氷漬け。行える方がおかしい。 そこで私は信頼できる部下たちと、当時開発中だった作業用ロボットのプログラムに、一つの言葉を遺して眠りに就いた。 「私が永遠に発明し続けられる世界を迎えた時、起こしてくれ」と──
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