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しゅうううう……
「…………?」
気が付くと、私は横たわっていた。
周りからは蒸気が噴き出すような音が聞こえる。そうだ、私は冷凍睡眠に就いていたのだ。そして目覚めたということは、誰か起こした者が近くにいるはずだ。
もやが掛かったようにぼんやりする頭を少しずつ覚ましつつ、私は周囲の様子を窺う。私が横たわっている物には覚えがある。特製の超安眠布団だ。これが非常に心地良い、気を付けないと再び眠りに就いてしまいそうだ。
慌てて頭を上げるが、周囲は真っ白で何も見えない。どうやら靄が掛かったようだと感じたのは寝起きだからではなく、単に部屋がそういう状況であるからのようだった。
私には思い当たる節がある。冷凍睡眠に使っていた特殊な薬品が蒸気になって漂っているのである。空気に溶けやすいため、いずれこの靄も晴れるはずだ。
私の考えを裏付けるように、視界を覆う白は徐々に色を薄め始めていた。
「おはようございます、ドクター・ウラシマ」
その向こうに立っているらしい何かが、私の名を呼んだ。
感情があまり見えない、女性のものらしき声だ。
「……ああ、おはよう」
相手が誰なのかはわからなかったが、私の研究室に女性スタッフは数人しかいないはず。ジングウだろうか、それともヤマザキだろうか。少なくとも私を目覚めさせただろう人物だ、挨拶くらいしておいて問題はないであろう。
だが靄が切れその姿が露わになると、私は思わず顔をしかめてしまった。そこに立っていた女性は、全く私の知る人間ではなかったからだ。
銀色の長髪を腰元まで垂らす、繊細な顔つきの若い女性だ。
「んん……あんたは?」
「私は『Mit-2013』。この姿でお会いするのは初めてですね。平時は〝マイト〟と呼ばれておりますので、ドクターもどうぞそうお呼び下さい」
「『Mit-2013』……マイト?」
私が呟くと、目の前の女性はちょこんとお辞儀をする。
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