墜燕-壱

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信号も設置されていない小さな交差点。 杜撰な管理から光の枯れた街灯が疎らに並び立ち、近場にある光源といえば手元にある高機能携帯電話(スマートフォン)くらいのものだ。 画面に映し出されるのは、デジタルな文字で表示された〝四時四十分〟。 暁の陽を目前に、街は未だ夜闇に包まれていた。 往来を通る車の姿はない。道としての役割を休眠した交差点は、ただ一角に存在する少女の為だけに在るといっても過言ではなかった。 「……ふう……」 少女は悴んだ手に白い息を吐きかけながら、その中にある小さな画面を凝視している。もう数刻もその場を動かず、このままだ。暖かそうなコートに身を包んでいるとはいえ、とうに全身は凍えきっていた。 だが、そんな時間も間もなく終わる。少女はただ、スマートフォンの画面に目を落としながら、その時が来るのを待ち続けていた。 画面の表示がひとつ進む。示す時刻は〝四時四十一分〟。 厳しい環境で待ち続ける少女には、ここまでの時間が途方もない長さに感じる。故に、たった一分の経過でも嬉しく感じた。 「…………」 まだ、こんな些細なことにも喜びを感じられるのか。少女は自虐的な感想を抱きつつ、画面の変化をただ見つめている。
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