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…………。
しかし。
秒読みが済んでも、何も起こる気配はない。秒読みに誤差があったのかと少し待ってみたが、それでも状況は変わらない。
慌てて時刻を確認しようとスマートフォンを取り出してみたが、どうやらこの僅かの時間で限界を迎えたらしい。画面は暗く沈黙したまま、何も映し出しはしなかった。
さらに少しの間、少女は無言で立ち尽くす。先ほど吸い込んだ空気が、重い氷塊になって残ったような、とても嫌な気分だ。
どう遅めに見積もっても、とうに四十四分は迎えたはずだ。
辺りを見回すも、相変わらず人気の無い往来は見た目にも寒々しい。条件は満たしているのに、何も起こらない。それが意味するものはつまり。
「……は、はは……やっぱ、ガセか……」
寒さではない理由から震える声で、少女は考えてみれば当たり前の結論を導き出し、冷たいアスファルトの道路に膝を突いた。
「まあまあ、そう気を落とすな。人生は上手くいく方が珍しい。お前は若いんだから何事も挑戦ってな、ケケケ」
少女はびくんと肩を跳ね上げると、弾かれたように立ち上がった。
突然の声に驚いたのもそうだが、もしこの場に誰かがいたとすれば、それが原因で悪魔が現れなかったという可能性も否定出来ない。その可能性の方が低いのは誰が見ても明白だが、少なくとも少女はそう思った。特に、この噂を知る者で意図的に妨害したとすれば、尚のこと意地が悪い。
だが、どこを見ても人の姿は見当たらない。確かに声はしたはずなのに、おかしい。今まで気にしなかった暗さが逆に恨めしい。
「どこ見てんだ、こっちこっち! ケケケ」
また声がする。どうやら前でも後ろでもないようだ。
だとすれば。
「……上?」
正直ありえないと自覚しつつ、視線を上方へ送る。
直後、そこに在った異形の双眸と視線が合い、少女は声にならない悲鳴を上げながら地面にへたり込んだ。
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