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冷たい雨――。
紅葉は今年も遅かったそうで、楓の葉先は焼かれたように縮れていた。そこから、ガラスに似た雫がこぼれおちる。
もう、雨は止みそうだった。
わたしは彼と別れるつもりだった。
彼には奥さんがいる。そして、二人が作った子どもがいる。
会うたびにその話題を出さなかったけれど、身の回りの持ち物から家での彼を垣間見られた。落ち着いた彼には、似つかわしくなかった。
「もう、ここへも当分来ないわね」
秋の京都はどこかもの悲しい。もみじの赤も、夕暮れの雨に濡れた石庭も、そしてこのひんやりとした空気も、全てを切なくさせる。
「さあ、行こうか」
彼は、そう言って畳の上を歩いた。
背中に彼が去っていくのを感じる。
雲間から光がこぼれおちる。
庭が色鮮やかに染まった。
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