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「そうか。ぼくはこの海では普遍の存在なんだ。色々なツテを通して、遠い地上でのヒトの世界のことも知っている」
「そうなの」
クラゲは、内から淡いピンク色の光を発していた。花のようで、どこか安心する光だ。少女は浅くなっていた呼吸を落ち着かせた。
「それで、ほとんど憶測に過ぎないけど、君は何者かの魔法によってその水晶の中に封印されたのだと思う。地上で起きた災難から守る為、頑強な守りを与えて海に逃した」
「魔法……水晶……」
言葉を唱えると、舌に抵抗なく馴染んだ。元々の生活では縁がある物だったはずだ。どういう存在であるのかも、数秒後には思い出せた。
「相手はいつかは迎えに来るつもりだったのだろう。ぼくらは長い間、水晶を見守ってきた。君たちの世界で言えば、おおよそ五十年以上とね」
「五十年!?」
少女は嘆いた。それだけの間、肉体を成長させることなくただ時を止めていたと言うのか。
「どうやら君を眠らせていた魔法術式は効力を失ったようだね。きっと、そう遠くない以前に術者が亡くなったのだろう」
そう言葉を連ねた長老様は、同情しているようにも感じられた。
「それで起きてしまったの」
少女は、ここは悲しむべきなのだろうと頭ではわかっていた。もう、元居た場所に戻っても、知り合いは居なくなっているか、誰も自分を認識してくれないだろう。
それを悲しいと感じることもできずに、衝撃だけを受けた。
記憶も心も、真っ白だ。
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