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同棲を始めた頃、伊織が作った料理の見た目は「これは食べれんのか?」と、目を疑いたくなるような無惨なもので……。
しかし、見た目は悪くても味は良いんじゃないかと、期待して一口食べた瞬間、その期待は完膚なきまでに打ち砕かれたのだ。
今ではめきめきと料理の腕は上がっている。
『湊、今日は早く帰ってこれそう?』
「ちょっと解んないなぁ。でもなるだけ早く帰ってくるよ」
『本当?』
「ああ。それで伊織の今日の予定は?」
『僕は、午後から優那さんの料理教室に行く予定 』
「なら、今日の夕飯は期待できるな。楽しみにしてるよ」
『うん、期待してて』
「おっと、もうこんな時間だ。ごちそうさま」
朝食をきれいに食べ尽くすと、湊は鞄を持って玄関へ向かう。
伊織がパタパタとスリッパを鳴らしながら、湊の後を追った。
靴を履き替えながら湊が言う。
「いいか、伊織。知らない人が訪ねてきても、決して簡単に扉を開けるな。あと、知り合いでも必ずモニターで相手を確認してから扉を開けるんだ、いいな」
『解ってる。充分、気を付けるよ』
あのストーカー事件の一件で、湊は伊織を守るため、防犯セキュリティが万全な物件を探してくれた。
それがこのマンションだ。
もちろんカメラ付きのインターフォンも採用しているから、勧誘の人とか出たくない相手の場合、居留守もできるし何かと安心だ。
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