奥さまは可愛い幼なじみ

4/45
427人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
『いってらっしゃい、湊』 「行ってきます。あ、伊織」 『何?』 「行ってきますのチューは?」 毎朝、湊と行ってきますのキスを交わすのが日課になっている。 伊織はそっと湊に近づき、背伸びをすると頬に軽く口吻けを落とした。 「頬じゃないだろ」 小さく笑って、湊が伊織の唇へ口吻けた。 当たり前のように進入してきた舌を深く差し込まれ、伊織は恥ずかしさにぎゅっと瞳を閉じる。 けれど、その羞恥を押し退けるほどの激しい口吻けに翻弄され、思考が麻痺した。 何度も交わす口吻けの中で教わったように稚拙(ちせつ)に舌を自然に絡めれば、舌先が痺れるような感覚が広がる。 絡まる唾液を嚥下(えんげ)して苦しさに唇を離せば、湊が長い溜め息を零した。 「─────…、悪い。このままだと会社を休むことになっちまうな」 衝動を必死に堪えているのだろう。 湊は視線を泳がせながら、「じゃあ、行ってくる」と、ノブに手をかけた。 『いってらっしゃい』 ひらひらと手を振り、湊を見送ると伊織は真っ赤な顔で、脱力したように溜め息をついたのだった…───。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!