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『いってらっしゃい、湊』
「行ってきます。あ、伊織」
『何?』
「行ってきますのチューは?」
毎朝、湊と行ってきますのキスを交わすのが日課になっている。
伊織はそっと湊に近づき、背伸びをすると頬に軽く口吻けを落とした。
「頬じゃないだろ」
小さく笑って、湊が伊織の唇へ口吻けた。
当たり前のように進入してきた舌を深く差し込まれ、伊織は恥ずかしさにぎゅっと瞳を閉じる。
けれど、その羞恥を押し退けるほどの激しい口吻けに翻弄され、思考が麻痺した。
何度も交わす口吻けの中で教わったように稚拙に舌を自然に絡めれば、舌先が痺れるような感覚が広がる。
絡まる唾液を嚥下して苦しさに唇を離せば、湊が長い溜め息を零した。
「─────…、悪い。このままだと会社を休むことになっちまうな」
衝動を必死に堪えているのだろう。
湊は視線を泳がせながら、「じゃあ、行ってくる」と、ノブに手をかけた。
『いってらっしゃい』
ひらひらと手を振り、湊を見送ると伊織は真っ赤な顔で、脱力したように溜め息をついたのだった…───。
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