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「瑞希、うるさいよ」
腕を組んで瑞希の顔を横目で睨んでいるのは、伊織の住む部屋の下の階に住んでいる斎王日向。
斎王日向もまた恋人と同棲している。
伊織と瑞希より一つ年上で、小柄な体格にうなじを覆うほどの長さの黒髪と大きな瞳が可愛らしさを際立たせている。
だが、性格は腹黒小悪魔で、彼氏をどう落とそうか考えている。
「ひなちゃん、怖~い。もしかして欲求不満とか?」
瑞希がニヤニヤして笑う。
「ひなちゃんって呼ぶな。それに欲求不満でもない」
「はい、おしゃべりはそこまで。伊織くんが来たことだし、始めるわよ」
優那がパンパンと手を叩き、料理教室の実習開始の合図となった。
『うわぁ……いい匂い』
「すげぇ、旨そう!」
カントリー風のカフェカーテンが揺れるキッチンで、伊織たちが歓声を上げている。
大型鍋の中で煮込まれているのは、ミニトマトやゴーヤなど夏野菜がたっぷり入ったカレーだ。
鼻腔を擽るスパイスの香りが漂って、それに反応するように伊織のお腹がグゥとなった。
伊織は、恥ずかしそうに小さく赤くなって顔を俯かせる。
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