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「……1人目から危ねえなぁ」
ぼそりと小由が呟きながら画用紙をあげた。
「……俺は、『トラフグ』」
「いやそれこそ危ないんじゃ!?」
「たしかに高級食材ですが……」
鍋を囲んで全員が倒れている映像が頭に浮かぶ。
『こちらも問題ありません。確実に毒のない部位を入れさせていただきます』
「ほら」
執事の説明に小由は勝ち誇ったように鼻を鳴らす。
……いつも執事に文句ばかり言っているけれど、実務的な部分は信頼してるんだろうか。
「なら、ま……いいのか?」
「では次は私が」
落ち着いたところで蒼央が画用紙をあげる。
『タラバガニ』と書いてあった。
「おぉ! すげえ!」
「これは間違いありませんねー」
「さすが早藤先輩です! いっきに高級鍋になりました!」
「いや、松阪牛とフグ入ってる時点で高級だろ……」
次々と歓声が上がる中、興奮する夕凪にエーガが小さく肩を竦める。
「なんか俺もうこれ位でいい気がしてきたけど……他、なんかある?」
「……ごめんなさい」
ふいに、蚊の鳴くような声がした。
見ると、いつもはきはきと発言している真那斗が俯いて小さくなっている。
「食べたいものと言われたのですがどうしても思いつかなくて……それで、ふっと頭に浮かんだ単語がこれだけだったんです……」
「何ですか?」
「いいから見せてみろよ」
蒼央とエーガが伏せている真那斗の画用紙を取り上げる。
「『カチョカバロ』……」
「え、なにこれ?」
「……たしか、チーズ……」
「あー、高級チーズだっけか?」
どんどん小さくなる真那斗に小由が声をかける。
「はい。焼きチーズが絶品と聞く高級チーズを、一度食べてみたいと思ったことがあるらしく……」
「いや、焼けないよ? 鍋だよ? 溶けるよ?」
「真那斗はもっと思慮深いと思っていましたが……」
「……これしか、思いつかなかったんです……」
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