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特に、魔王の手下の敗北原因をあれこれ調べている。萌黄からすれば、せっかくの才能を捨てているようなものにしか見えないのに、本人は真面目に研究しているから言葉も出ない。
話に付き合っていると遅刻になりかねない。大雑把に聞き流して、自分の準備に取り掛かるのが一番だ。わかっている萌黄はテーブルの上に置かれたトーストを手にとり、それをかぶりつつ紺に紅白のラインが入ったセーラー服に着替え始めた。
「萌黄、起きてきたのならちゃんと挨拶なさい」
稲妻家の母である棗(なつめ)はキッチンで弁当作りに勤しんでいるようだった。今日は珍しく四つの弁当箱にご飯、卵焼き、お浸しと詰め込まれている。
「あ、ごめん、おはよ」
「父さんにも言ってあげなさい」
「あれ、父さんもう起きてたんだ」
洗面台を覗くと、稲妻家の主である鬼灯(ほおずき)が全く似合っていないスーツ姿で鏡に向かっていた。実に珍しく険しい面つきで鏡に映っている自分と向かい合って、ネクタイを何度も直している。こうやって背筋を伸ばして真面目な行動をしていれば、間違いなくもてるだろうし、もしかしたらモデルにスカウトされそうな絶妙な存在感がある。
「父さん……おはよ」
声を掛けるなり、鬼灯は鏡越しに口元を緩めた。
「ああ、起きたのか萌黄」
「うん、まあね。それよりも父さんはりきってるね。今日の面接頑張って」
「まあ適当にな」
「もう父さんってば口も態度も悪すぎるのよ。大人しく言うこと聞いてれば三百三回も就職活動しなくてもとっくに就職できてると思うんだけど」
実際、鬼灯が働いたというのは一度もなかった。いや職についていなかったわけではないが、誰かの下について働くというのが未経験だったのだ。しかも幼いころから甘やかされて育ったという経験もあってか、性格はわがままで自分勝手。自分の気に食わないことがあればすぐに放り出す。結局、稲妻家の家計を支えているのは献身的な母・棗の収入だけだ。
「面接官が悪いんだ。私に命令をするなど千年早い。しかも敬語を使えだのなんだの、訳がわからんな」
これが盗聴されでもしていたら間違いなく一発で不採用である。
「今回こそちゃんとしなきゃダメだよ。千歩でも千年でも面接官に譲ってあげればいいじゃない」
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