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「噂によると、転校生が来るらしいよ。しかもジュニーズアイドルのMi-Ha(ミーハー)似なんだって。その噂正しいのか間違ってるのかは知らないけど、火のないところに煙は立たないって感じで、もう三年生中が沸き立ってるの」
「ふうん。この学校の男子ってイケてないもんね。いたとしても三組の松陵(しょうりょう)圭太ぐらいでしょ? そりゃあ転校生で沸き立つのも無理ないわよね」
そんなに噂になるほどの男ってどんな奴だろう。萌黄はその顔を拝むべく、今か今かと廊下側をじっと見ていた。
そのとき、ティーチャーこと茶々(ささ)先生に隠されるように、噂の彼は廊下を通り過ぎて、三年一組の教室に入ってきた。と同時に一組の女子の黄色い声が上がる。またそれだけではなく二組や三組の物好きの女子がいつのまにか一組に紛れ込んでいて、一緒になって黄色い声を上げている。その声にはさすがに圧倒されたのか例の彼は目を見開いたまま、茶々先生に何かを訴えようとしている。一方の中年メタボの茶々先生は自分が声援を浴びていると思い込んでいるのか、顔を赤らめつつ咳払いを一つし教室を静めた。
「では今日からこのクラスの一員となる彼を紹介しよう。千臣(せんしん)篤志君だ。千臣君も一言何か言ってくれ」
千臣という例の彼はよくわからないままとりあえず頷いて、改めてクラスの皆に向いた。
「んーと、初めまして千臣です。これからお願いします……こんなのでいいっすか」
初めて聞いた千臣の淡々とした声に、女子の鼓動はヒートアップし、歓声はもはや悲鳴に似た感じになって、興味のない者の鼓膜をギンギンに奮い立てる。
漆黒の髪は柔らかいくせっ毛だが寝癖のようには見えず、お洒落なヘアスタイルにも見えないことはない。学ランは着崩しているのに校則違反に触れているようにも見えない。やる気も生気もなさそうな瞳なのに、それが女子心を煽っているのもわからないわけではないのだ。
「まあ、合格ってとこね」
「え、萌ちゃんあの人のこと好きになっちゃったの?」
「そんなわけないでしょ。あたしああいうハッキリしないタイプ好きじゃないの。ただ単に女子の気を引く要素を持ち合わせてる点で合格なだけ」
「こういう人、萌ちゃんらしくないもんね。謎めいた雰囲気してるし、あの人」
「うん、それになんか嫌な感じがするのよね……」
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