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「仕上げは車庫入れだね」
怪訝そうに僕の横顔を見守っていた彼女を振り向き微笑みながら鬼の宣告をすると、彼女は恐怖におののいた表情を浮かべた。
そうそう、その顔が見たかったんだよ。
「……もう今日はいいです」
「来週はまた仮縫いだし、こういうことは一気に練習しないと」
「今度こそぶつけますって」
それがかえって僕の加虐心を煽っているとは知らず、彼女は必死の抵抗を見せた。
「いいよ。でも駐車場は破壊しないでね。はい、キー」
彼女の手を取って車のキーを無理やり渡すと、彼女の眉がまたハの字になった。
笑いたいのを我慢して訴えるような目を無視し、車を降りて助手席の窓をコンコンと叩く。
彼女は命綱のようにシートベルトを握りしめていた。
「でももうすぐお母さんたち来られます」
「まだあと一時間以上あるから大丈夫だよ」
グズグズと粘っていた彼女もついに観念したらしく、シートベルトを放して助手席からノロノロと這い出てきた。
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