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「大丈夫。……そのままバック」
突如、ブォンと排気口が派手に唸りを上げたかと思うと、赤いテールランプを灯した車体が僕に向かって突進してきた。
車とは一メートルほどしか離れていなかったから、それは一瞬の出来事だった。
「うわ……っ」
ドスンと衝撃を感じた瞬間、僕の頭は様々なことを考えた。
ああ事故ってこんな風に些細な油断で起こってしまうものなんだな、とか。
もしかして彼女は桐谷と専務が差し向けたハニートラップで、僕はまんまと罠にはまったのかな、とか。
でも彼女なら許せてしまうな、とか。
彼女は僕のために少しは悲しんでくれるかな、とか。
まあよく突拍子もないバカなことばかり一瞬で考えられるものだ。
車体をまともに身体の前面で受けた僕は仰向けに倒され、地面の鉄板で頭を打った。
一瞬の目眩で無抵抗のうちに脚がすっぽりと車体の下に飲み込まれたところで、車は急停止した。
目の前では排気口がブォブォと音を立てていて、車は僕を半分下敷きにしたまま硬直したように動かない。
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