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間一髪、無事で済んだのは、彼女的には奇跡の反射でブレーキを踏んでくれたらしい。
それでも彼女がうっかり足を緩めないうちに早く脱出しなければと上体を起こすと、開いた窓からふにゃふにゃとか細い声が聞こえてきた。
「やだ……誰か……」
思わず苦笑して立ち上がり、服の埃を払って助手席のドアを開けると、彼女は目をいっぱいに見開いてガタガタ震えながら僕を見つめている。
「大丈夫だよ。落ち着いて」
彼女に声をかけながらとりあえずの安全圏──助手席に乗り込む。
彼女はまるで幽霊に出くわしたかのような恐怖の表情でこちらを見つめたままだ。
受け取りようによっては、仕留めたはずの虫が生き返ったのを見るような恐怖の表情……と言えなくもないが。
それは置いておいて、早くこの雰囲気をリセットしてやらなければと、できるだけ何事もなかったように指示を出す。
「とりあえず入れてしまおうか。そのままゆっくりバックして……ストップ。はい、できた」
あとはただまっすぐ車止めまでバックするだけだったので、物騒な車庫入れは、最後だけはあっさりと完了した。
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