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「怪我は……?」
ようやく彼女が声を出した。
見ると、声だけでなく、ハンドルを握る手もまだ震えている。
「無傷だよ」
頭を打ったことは黙っておいた。
咄嗟に庇ったので強打した訳ではない。
「でも絶対、当たりました…!」
「押されたけど止まってくれたから全然。本当に怪我はないから」
涙目で主張する彼女をなだめているうち、可笑しくなってきた。
「ほんと、やってくれるね」
あまりに鈍臭い彼女と、そんな彼女に喜んで殺されかけた自分が滑稽で笑いだしてしまった。
もしこれがハニートラップなら、どんな美女より最高の人選だ。
もう僕は彼女になら何されたって構わないぐらいなんだから。
彼女が無意識だから、なおさら厄介だ。
「一瞬、婚約者に殺されるドラマかと思ったよ」
彼女は笑い出した僕を顔面蒼白のまま途方に暮れたように眺めていたけれど、僕のこの言葉で、みるみるうち目が涙でいっぱいになった。
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