二人の転機

19/23
前へ
/23ページ
次へ
そのままさらに彼女を引き寄せてもう唇が触れようかという時、車がわずかに動いた。 ブレーキを踏む彼女の足が緩んだからだった。 僕も動転していたようで、まだエンジンも切っていなかったことに今ごろ気づく。 「……ギアをパーキングにして」 「はい」 すれすれの距離にある彼女の唇に囁く。 彼女はかすれた声で応え、瞬きもせずに僕を見つめたまま手探りでギアを操作した。 僕がやれば早いのに、なぜ指示を出してしまうのだろう? それは、これを最後に、僕はもう致命的に元に戻ることが出来なくなるからだ。 「サイドブレーキ」 「はい」 抗いもしない従順な声と身体が僕を誘う。 最後の猶予をあげるから、僕が君を離せなくなる前に、逃げるなら今、逃げて欲しい。 「キーを……」 でも、理性が保たれたのはそこまでだった。 僕の言葉の前に彼女の手はすでにキーにかけられていたけれど、それすら待てなかった。 強引に手を重ね、キーを抜き取るのと同時に、彼女の唇を塞いだ。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2973人が本棚に入れています
本棚に追加