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そのままさらに彼女を引き寄せてもう唇が触れようかという時、車がわずかに動いた。
ブレーキを踏む彼女の足が緩んだからだった。
僕も動転していたようで、まだエンジンも切っていなかったことに今ごろ気づく。
「……ギアをパーキングにして」
「はい」
すれすれの距離にある彼女の唇に囁く。
彼女はかすれた声で応え、瞬きもせずに僕を見つめたまま手探りでギアを操作した。
僕がやれば早いのに、なぜ指示を出してしまうのだろう?
それは、これを最後に、僕はもう致命的に元に戻ることが出来なくなるからだ。
「サイドブレーキ」
「はい」
抗いもしない従順な声と身体が僕を誘う。
最後の猶予をあげるから、僕が君を離せなくなる前に、逃げるなら今、逃げて欲しい。
「キーを……」
でも、理性が保たれたのはそこまでだった。
僕の言葉の前に彼女の手はすでにキーにかけられていたけれど、それすら待てなかった。
強引に手を重ね、キーを抜き取るのと同時に、彼女の唇を塞いだ。
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