二人の転機

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唇を重ねながら彼女の身体を抱き寄せると、右半身がわずかに抵抗した。 練習の緊張の名残か、彼女はエンジンを切ってもブレーキを踏み続けているらしい。 「……もうブレーキ放していいんだよ」 唇を放すのが惜しくて、わずかに浮かせただけの距離で囁く。 僕を見つめる黒く丸い目が頷くように瞬いて、それから腕の中の右半身の強ばりがそっと解かれ、すべてを承諾するように柔らかく僕に寄り添ってきた。 どうしてそんなに素直に身を任せてくる? ガードの固かった彼女と腕の中の従順な彼女とのギャップに脳天を殴られ、心の中で呻きながら再び唇を重ねる。 彼女にとってこれがさきほど僕を轢きかけた恐怖から来る衝動でも、もう構わない。 自制しても深くなり、その度に漏れる彼女の甘い吐息がさらに僕を夢中にさせた。
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