黒木編第6話 二人の転機

二人の転機

「もっと開いて」

僕の言うままに開かれた柔らかな唇から深く侵入すると、彼女は喘ぎながら細い腕を僕に回してぴったりとしがみついてくる。

いつか僕のベッドで彼女を試したのは、肌を露出していても、ほんの真似事に過ぎなかった。

なまめかしく音を立て絡み合う今の僕たちは、婚約とは名ばかりの他人行儀な距離から初めて境界を越えて、紛れもなく男と女になっていた。

鈍臭くて頼りない彼女が一転して見せる女の表情や声に、ここがどこなのかも忘れかけた時、鋭い電子音が濃密な空気を裂いた。