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それは二人の密着する身体の隙間──僕のポケットから響いていた。
突如乱入してきた邪魔な音にすぐさま応える気が起きず、動きを止めたまま黙って彼女を見つめる。
けれど、呼び出し音はなかなか鳴りやまない。
渋々ポケットを探り電話を取り出した僕の口から、大きなため息が漏れた。
母だ。
分かっていたのに、夢中になってすっかり忘れていた。
それにしても、まるで図ったようなこのタイミングの悪さを呪いたくなる。
「……はい」
「あ、裕一?お母さんたちね、早めに着いちゃったのよ」
僕の内心とは裏腹に空気を読めるはずもない母のけたたましい声が響いてきて、思わず眉をしかめて携帯を耳から離した。
「もう裕一のマンションの前なんだけど、どうしたらいい?」
「行くからそこで待ってて」
今日はこれでお預けだ。
通話を切って苦笑した。
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