二人の転機

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「母がもう来たみたいですね」 僕を見上げて素直に頷く黒い瞳は、何を思っているのだろう? 遠慮を捨てて彼女の中に深く踏み込みたい衝動を抑える代わり、もう一度柔らかな唇に触れる。 それだけで足りるはずもないけれど、渋る身体を彼女から引き剥がした。 彼女が涙の跡を直せるようしばらく車外で待ってから、二人並んで駐車場の出口に向かい歩き始める。 さきほどの一幕の直後に母の騒々しいテンションに合わせるのは面倒だけれど、隣でまだ恥ずかしそうに頬を赤くしている彼女の反応を見るのもまた楽しみだ。 でも、なぜ心許ないのだろう? ようやく腕の中に捕らえた彼女は、しっかりと掴んでいなければ儚く消えてしまいそうな、そんな予感がした。
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