二人の転機

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「それに、お店にいたあの子たちは優しい飼い主さんに貰われて大切にされる幸せな子たちだから、私が飼わなくてもいいんです」 彼女の声は無理して朗らかに張り上げたようだった。 彼女が今なにを思っているのか、分かった気がした。 今でも時々彼女のバッグから顔をのぞかせている、茶色い耳つきのスマホケース。 彼女が本当に抱きたかったのは、誰にも守ってもらえず飢えや寒さに耐えて孤独に生きる小さな野良猫たちなのだ。 頼りなく見えるけれど、彼女は細い身体に大きな母性を秘めていた。 僕が彼女に惹かれ、絶対に抗えないと感じるのは、それに包まれたいと本能的に願っているのかもしれない。 「えっと、あの、先週はうちの父がすみません。ほんと煩くて」 しんみりとした空気を破るように、彼女が話題を変えた。
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