二人の転機

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「ああ、引出物?別にいいよ。すんなり決まったしね」 すんなり、でもなかったか。 先日、引出物で彼女とお父さんが口論になったのを思い出すと顔が勝手に笑い出す。 彼女のお父さんは偏屈な珍人類で、会うたび僕は大いに楽しませてもらっている。 お父さんは引出物は重ければ重いほど格が上がるという考えらしい。 だから引出物はカタログにしようという僕たちの意見を聞くと、頑なに反対した。 『私の結婚式なんだから!』 『式は親の役目だ!遠路はるばる来た親戚にスッカスカの紙袋渡してハイお疲れさまってできるか』 『今はカタログは立派な引出物なんだよ。お父さんだってこの間ホクホクして選んでたじゃない』 『ホクホクなんかしとらんわ。もったいないから選んだだけだ』 彼女が怒る貴重な様を楽しみつつも、いつまでたっても漫才のような平行線なので仕方なく仲裁に入る。 『じゃあお父さん。カタログはやめて、帰りがけに二人で百貨店に寄って引出物を決めてきますよ』 『スズランか?』 スズランとは、ここ彼女の実家がある群馬のローカル百貨店だ。
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