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向日葵のようなあの子のことを忘れることができない。
旅先で知り合った小さな女子は、白いワンピース姿でわたしを案内してくれた。
澄み渡った空、木陰を吹き抜ける穏やかな風。
その湖畔の町は、隠れた避暑地ともなっていた。
ところかまわずミンミンと鳴く蝉をこれほど疎ましく感じたことはない。
あの蝉のせいで、わたしは少女の声がよく聞こえなかった。
歳の頃は10歳くらいだろうか。
無人駅を降りたわたしは、線路脇で遊んでいた女の子に声をかけたのだ。
その女の子はとても可愛かった。
ひとりで寂しそうにしていた。
旅が、わたしを開放的にしていたのだろう。
「きみは、この町の子?」
「うん。」
「いまは夏休み中だよね。」
「そうだよ。」
「なにして遊んでたの?」
「バッタを追いかけていたの。」
「うまく捕まえられた?」
だがこの質問には答えず、女の子はわたしへ近寄ってきたのだった。
「おじさん暇? 一緒に遊ばない?」
こんな無垢な言葉をわたしは聞いたことがなかった。
わたしには断る理由などなかった。
わたしはこの町に遊びにきたのである。
せっかくの休暇を、田舎といわれる町でのんびりと過ごす。
都会育ちのわたしは、そんな郷愁に駆られていたのだった。
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