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そしてその頃から、また少しずつ王様は変わり始めました。
それまで姫に優しく接していた王様でしたが、
「私に指図をするな!」
と、怒鳴ったり。
「口を噤み、ただ頷いて静かにしていなさい。
おまえは黙って私の言うことを聞いていればいいのだ……」
が、口癖になったり。
そうかと思えば急に態度を変え、
姫に豪華な贈り物をしたり、
エリーニ姫の美しさを賛美する言葉を並べ立てたり……
姫はそんな王様の態度にとても不快感を覚えました。
そしてその不快感は、遠い昔に忘れていた何かを呼び覚ますような、不思議な感覚を姫に与えるのでした。
王様の手が自分の髪に触れるたびに、ひとつ……
王様の手で、頬を撫でられるたびに、またひとつ。
なぜか記憶が断片的に甦るのです。
そんなある日、王様は姫の耳元で囁きました。
「愛しいエリス……わたしの女神……」
酒に酔った吐息とともに、王様が漏らしたその名前は
エリーニ姫の母、
亡くなった王妃の名前でした。
その瞬間、
姫はようやく忘れていた出来事を思い出したのです。
自分の母が無理矢理、王の妃にされたことを。
そして、
記憶の中で、ぼんやりとした面影しか残っていないけれど
確かに王様とは別の……
自分には父親がいたという記憶を。
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