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到着
芳樹の登場により作業は着々と進み宴会の予約が一つ遅くなったこともあり何とか今日の営業もこなすことができた。途中重雄の友達とやらが一番忙しい時にカウンターにやってきてうちのメニューの中で一番人気で一番準備に手間のかかるカルボナーラを所望したときは終わったと感じた。これは常連の客にだけ出す隠れメニューなのだが常連は忙しくないタイミングを狙って注文してくれる。が、今回は違った。高校の時の親友が数十年ぶりに重雄に会いに来たのだ。うちのカルボナーラが四種のチーズをすり卵を三つ卵黄と卵白に分けベーコンを低温の油でゆっくりカリカリにあげなどといった場所と時間を割く料理だということを理解していない。最後パスタとソースを混ぜ仕上げをするのは重雄なのだがそこまでの準備は幸助か芳樹がやらなくてはならない。重雄は数分おきにカウンターから顔をだして「まだかー」と聞いてくるがそんなに急いでいるなら自分でやれと幸助はいらいらしていた。そんなことを考えていると宴会に出す鰈の煮つけが煮詰まりすぎて焦げかけてしまっている。「くそっ」幸助は鍋を小刻みに振り少し水を加えて伸ばす。「僕、パスタ準備いきますか?」と優しく聞いてくれた芳樹に対して「聞いてる暇あるならさっさとやってくれよっ」とやつあたりしてしまった。またやっちまった。幸助は忙しくなり切羽詰まると芳樹に当たってしまう。いつも少ししてから後悔し謝ろうとするのだが芳樹はそんな幸助の様子も察知し「さっきは大変でしたね」と優しくいってくれる。忙しい時はどうしてもしょうがないということを芳樹は理解してくれている。幸助は今日の賄いのとんかつ一切れ増やしといてやろうと密かに考えながら鍋を洗う芳樹の背中を見た。
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