愛着

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トントントン 玉ねぎを刻むのは楽しい。 トントントン 初めはとても苦手だった。 トントントン 目が痛くなるし時間がかかる。 ある居酒屋で従業員として働く幸助は今日の一人八千円の宴会で出るローストビーフを焼くときに肉の下にひく玉ねぎの仕込みをしていた。薄めにサクサクとスライスした玉ねぎをフライパンであめ色になるまで炒めたものを牛肉の下にひくことでオーブンで肉を焼いたときに肉汁が玉ねぎにしみ込みそれをソースを作るときに活用する。 大きな肉の塊の下にひくのだからたくさんの玉ねぎを仕込む必要がある。もう手はパンパンになっていた。幸助の働く居酒屋は六十歳の重雄が営んでいる個人経営の小さな居酒屋で従業員は幸助だけだ。あとは重雄の奥さんの玲子が女将さんとして働いていて大学生のバイトの子が数人いる。店は小さいが料理には定評があり雰囲気もよく好評であるので店はある程度繁盛していた。重雄は若いころ東京のレストランで修行してきたらしく中華イタリアン、フレンチから和食までほぼすべてがトップレベルで幸助がこの店に就職するきっかけも重雄の技に惹かれたからだった。 玉ねぎを仕込み終わった幸助は急いで次の仕込みに入る。今度は一人三千五百円の宴会に出るお好み焼きのタネを作り鶏肉のから揚げを仕込む。 重雄は仕入れに行くので二時ごろに一度仕入れの半分を持ってきたあともう一度市場やスーパーに行き開店ぎりぎりまで店には来ないので仕込みはほぼすべて幸助の仕事だ。バイトに厨房の子はいるのだが大学生なので講義が終わらないと出勤してこない。しかも今日は六時まで誰も出勤してこないのでホールの準備も幸助に課されていた。 「間に合わないだろうな。」幸助は重雄が来た時に仕込みが終わってなさ過ぎて怒鳴られることを想像して一人憂鬱になっていた。
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