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ピトー管はすでにあてにならない。
レーザージャイロももうすでに軸をずらしているだろう。
僕にできることといえば何かのはずみで上がりすぎてしまった速度を何らかの手段で落とすことぐらいだ。スポイラーはすでに両翼ともに上がっている。背についているエアブレーキも上がっている。エアブレーキのせいでピッチが上がり気味になり、スポイラーのせいで揚力は落ちる。もうすぐ失速することが判る。
音速はすでに突破しているのでコックピットの中は静かだ。風切り音は音が届く前に機体の後ろに流れてしまっている。
脱出したい気分を抑える。音速を超えていても座席についたロケットエンジンは僕を後方に打ち出すだろう。脱出してどうする? 制御を失った(すでに失っているとも言える)機体が民家に落ちた時のことを考えると安易に頼ってもいられない。
僕は視界の隅に直線を捉える。機体の両翼の先端から綺麗な渦が飛行機雲を引いているのだ。雲は遥か彼方まで伸びている。
マッハ2.1。あてにならないピトー管がそう告げる。どうせこの機体のクルージング速度はマッハ1以下だ。マッハ2以上出ることを考えられて作られているわけではない。
この雲は、地上からはどう見えているだろうか?
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