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「まだかっ!女王がお待ちかねだ」
ここは、水亀国王家専用“食用金魚”養殖場。
見た目も一般的な観賞用と違い、味・栄養はもちろん滋養強壮はたまた美容など、何十年と実験を繰り返し欲望の限りを詰め込んだ改良型金魚が養殖されている。
「そうは言っても、精力増強にいいのを選べったって……」
「タガメの女王が、満足できるだけの精力が雄に必要なんだ。この強い水亀国のためにも跡継ぎだってな。それにお金魚様のおかげで、わしらは餌にされずに済んでる」
「そうだけど……」
仕方無く適当に成魚を選び、綱をつけた大きな網を上手く腹の下へ潜らせ、一気に綱を引いて一匹掬い揚げる。
慣れた作業だけれど、『助けて』と口をパクパク動かし網から腕を伸ばす金魚に『ごめん…ごめんよ』と毎回何度も謝り、大きなたらい桶へと移す。
他の金魚は行き先がわかっているから、運ばれていく桶の金魚の悲鳴を聞きながら、悲しみの歌を歌い見送る。
この時間が一番苦しく、まだ怒りをぶつけ、罵られた方がどれほど楽か。
*******
「自分も被害者って面だな」
ある日の掃除中、不意に声をかけられ顔を上げた。
見ると一匹の若い雄の金魚が縁に腰掛け俺を見ている。
「おまえ、息が……」
「改良され続けた末裔には、俺みたいに陸で呼吸できたりするのが出てくる。ただ、歩けないから水の中にいるだけだ」
パシャリとその美しい尾で水を打ち、ゆらゆらと水の中でヒレを動かした。
「不満だらけの顔。嫌なら何故この国を出ない?俺達にない足があるだろ?」
「一番下の弟が囚われてるんだ。この国では、庶民の自由を奪う為に、家族を一人連れて行くんだ。前は祖母が自ら行ってくれてた。けど亡くなった途端、兵達が遺体を置いて弟を連れて行った」
「人質をとり縛り付ける……古いやり方だな。ここの女王ってかなりの年齢だろ?息子がいるって聞いたが……」
「居るには居るが病がちで体が弱いんだ。だから次の子どもを作ろうと焦っているらしい。けれど女王の性力に勝てる雄がいないらしく、先に果ててはみんな食われてるって話だ」
『こえ~っ』と金魚は身震いする。
「一度に5人と試したこともあったけど、誰一人戻ってない。もう女王に敵うタガメは存在しないだろうな」
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