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話を聞きながら、金魚は不思議そうな目を向ける。
「ねえ、名前は?聞いても仕方ないんだろうけど」
「……シマゲンゴロウの縞五郎」
「ふ~ん。よくあるっぽい名前だけど俺も金麗(キンレイ)なんてありがちな名前。でもあんた気に入ったから“縞”って呼ぶね」
鱗を光らせて華やかに笑う。
自分にはない華やかさに、嫉妬している己が嫌になる。
「そうだ、縞にだけ秘密教えてやる。俺には凄い力があるんだ」
「ぶふ、どんな力?」
「信じてないだろ?願いを叶える力だよ……」
金麗の目が妖しく細められ、小さな声で答えた。
「願いって……何でも?まさかぁ…」
信じられない俺を『まあまあ…』と手招きする。
「厄介なことに、この力は自分や同種間では使えないんだ。あと、自然の摂理に反することもダメ」
「じゃあ、『新しい服が欲しい』とかは?」
「いいよ♪」
金麗は片手で水を掬い『ふうーっ』と吹き飛ばした。
水は霧のように飛び散り落ちていく。
「おーい、縞五郎」
と、すぐに向こうで養殖場長が俺を呼ぶ声がし、慌てて行くと新しい作業服をくれた。
信じられない気持ちで作業服を手に戻ると、金麗が『すげえだろ♪』と尾で水面を叩いている。
「これが、力?」
「そうだよ♪」
「す…すげえ!すげえな!」
飛び上がる俺に『そうだろ?』と得意気だ。
「ただ、叶える願いは一日一回。そして願いに見合う“モノ”を俺に与える。所謂、等価交換だね。今だったら……そうだ、美味しい焼き菓子を掌にのるだけ」
「そんなのでいいのか?わかった。明日でもいいか?作ってくるから」
「縞が?いいよ♪楽しみ」
こうして俺は次の日、手作り焼き菓子を金麗の掌にのせた。
美味しそうに頬張る金麗と色んな話をした。
*******
その日から金麗とどんどん親密になり、そして様々な願いを叶えてもらった。
ただ、今の俺には等価交換できる範囲が限られてるから、まだまだ大きなモノは無理だったけど。
靴に鞄に鍋に……
そう、そんな身の回りのモノで満足していた。
いや、せざるを得なかったが正しい。
本当は家だって、地位だって、圧倒的な力だって欲しい!
欲望がどんどん膨らんでいく。
かなり経ったある日、思いきって言ってみた。
「家族みんなが楽に暮らせる家が欲しい」
「家ねえ……かなりするよ?」
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