11人が本棚に入れています
本棚に追加
「どれくらい?」
「養殖場長一人分。ここに放り込むだけでいい」
金麗は今入っている水を指差す。
躊躇いはしたが、助言通りにうしろから突き飛ばすだけで簡単なことだった。
群がる金魚達に食いちぎられる様を見ず、ちょっと耳を塞げばいいだけ。
おかげで家は辺りで一番の豪邸になっていた。
*******
「高い地位を得たい。そうすれば弟を取り返せるから」
何日か後、俺は一番の願いを金麗に願った。
「いいけど……かなりするよ?」
「どれくらい?」
「女王一人分かな」
さすがにそれは不可能だ。
「縞がお婿候補に立候補すれば、機会なんていくらでもあるよ。今はお婿候補が不足してるんだろ?」
「俺が?でも……」
「タガメが最強だって誰が決めた?ゲンゴロウだって俺達からすれば強敵だ」
躊躇う俺の耳に金麗が囁く。
「一番無防備な時だよ……簡単なことだ」
俺の躊躇いがなくなっていく……
「簡単なこと……」
******
俺は手続きを済ませ寝所へと向かった。
何やら脳がくらくらする香が焚かれた寝所で、初めて女王を間近で見た。
異種間での交わりでは、子を授かることは難しい為、俺の役目は女王を果てさせ優秀なタガメの雄に種付けをさせること。
そう、この妖艶に俺を誘う老齢の女王の……
唇に吸い付き、暴れる女王を押さえそこより捕食した。
声など洩らせぬ鮮やかさだった。
******
時代が変わる……はずだった。
俺は確かに、女王を倒した男として、一瞬高い地位を得た。
だが俺は捕らえられ、弱いはずの女王の息子により、これより刑を受ける。
運ばれる途中の美しい渓谷で、沢山の金魚達が戯れていた。
その中に、金麗の姿があった。
「金麗、金麗っ!俺を助けてくれ」
金麗は振り返り、妖しい微笑みを浮かべる。
「俺の願い叶っちゃったからね。縞にはもう用がないんだ」
「え……」
「だってさ、女王の優しい息子は金魚を食べないことを知ってたから。クスッ……代替わりさえすれば、俺達は自由になれるのわかってたんだ」
震える俺に冷たい視線を向ける。
「縞くらい単純な奴はいなかったよ。操るのが簡単だった」
「なっ…」
「自分の身可愛さに、俺の仲間を送り続けた……俺達の敵だ」
そう言うと、金魚達は水の中に笑いながら潜った。
残されたのは、これから重く辛い刑を受ける、愚かな俺だけだ……
□完□
最初のコメントを投稿しよう!