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「そんなものいくらでもごまかせるじゃない。あなた、このまえのことでわたしのこと泥棒呼ばわりしておいて、それでもあきたらなくて、こんなメモをわたしの机のなかに入れたんでしょ! やり方が卑怯よ」
美琴の頬がさらに青ざめた。
「たしかに、卑怯だわ。卑怯な……ずるいやり方だわ」
唇まで青くなり、その青ざめた美琴の唇がふるえ、奈々の思いもよらなかった言葉をつむぎだした。
「こんなこと、ゆるせないわ」
奈々がさらに驚いたことに、美琴の目がうっすら濡れて光った。
「本当に、あなたじゃないの?」
奈々をつき動かしていた怒りが一瞬にして消え、急にたまらなく気恥ずかしくなった。
テレビドラマのヒロインのような過激な態度や言葉に、自分で自分がたまらなく照れくさくなってきた。けれども美琴は奈々を見ていなかった。ただひたすらしわくちゃになった水色の便箋のうえにこめられた悪意だけを見つめ、そしてつぶやいた。
「待ってて……。このことは、きちんと処理するわ。けりをつけるから」
「え?」
けりをつける、という美琴らしくない言葉をのこし、美琴はさきに美術室をかけるように出ていった。
つぎの授業に美琴はもどってこなかった。
「気分がすぐれないって言っていたから、たぶん保健室に行っていると思います」
「そうね、そういえば具合悪いって言っていたわ。きっと滝川さん、保健室よ」
「朝から、今日はちょっとしんどそうにしていました」
なるほど、こういうのも協調性とか、団結力とかいうのかもしれない。みょうに感心しながら奈々はつぎに自分にむかってきた数学教師の詮索に、自分でも思いもよらない言葉をかえしてしまった。
「はい。滝川さん、急にお腹がいたくなったみたいで、保健室に行くって言ってました。たぶん……女の子の日だと思います」
最後の方はいかにも言いづらそうに顔をうつむけ小声で告げたのが、若い男性教師にはてき面だったようだ。それなら仕方ないな、と彼はきまり悪そうな顔で授業をすすめた。
放課後、美琴と仲のよい副委員の生徒からもらった伝言のとおり、奈々はふたたび美術室にむかった。
誰もいない、しずかな飴色の廊下をすすんでいくと、女の子の声が聞こえてきた。
「だって……! イヤです!」
近づくにつれ、声の主が泣いていることに気づいた。
「嘘じゃないもん、本当だもん。あの人、泥棒なんだもの」
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