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「サリーちゃん、サリーちゃんがパパのきめたことをどうしても変えられないように、皆川さんにも、それはどうにも出来ないことなのよ。わたしだってまだ子どもだし、よくわからないから偉そうなこと言えないけれど、ただね、ひとつだけはっきりと言えるのは、サリーちゃんのパパが家を出たことがサリーちゃんにはなんの責任もないように、皆川さんにもなんの罪も責任もないのよ。意味のないことで人を恨んでも、仕方ないことだと思うの。パパが家を出ていってさびしいのなら、パパの分もわたしがサリーちゃんを愛してあげる。クリスマスもいっしょに過ごしましょう。サリーちゃんにさびしい想いなんて絶対させない。だから、だからね、サリーちゃん、人を憎んだり嫌ったり、こんなずるいことをして人を傷つけるのはもうやめましょうね」
ひときわ大きなすすり泣きがひびいてきた。
「……ごめんなさい」
「わたしもいっしょにあやまるわ。わたし、まえに皆川さんにとても失礼なことを言ってしまったの。ぜったいに言ってはいけないことを言ってしまったの。サリーちゃんの話を聞いて相談にのっているうちに、つい自分のことをかさねて、関係ない皆川さんを憎んでしまっていたんだと思うわ。やっぱり、どこかで父と、相手の人たちのことを憎んでいたんだわ。それをすべて皆川さんにぶつけてしまったのね……。そのことも、もう一度ちゃんとあやまりたいと思っていたの。きちんとあやまろうと何度も思ったんだけれど、今まではなかなか機会がなかったから……」
奈々の背にはりついていた緊張が、さらにとけていった。
「皆川さん、ゆるしてくれるかしら?」
「だいじょうぶ。皆川さんは、本当はとっても優しい人よ。きっとゆるしてくれるわ」
ちがう。奈々はうつむいて泣きたいのを我慢した。やさしいのは美琴だ。
家を出ていく父親を責めることをしなかった美琴。サリーといっしょになって奈々を憎んでもいいのに憎しみを捨て、必死に沙理衣の心をなだめようとしている美琴。規則も規律も無視して、こうして奈々と沙理衣のために心をくだき、たった十六で、必死に大人になろうとしている美琴。
一見冷たそうな怜悧な瞳の奥にひそむ彼女の優しさを、今、奈々ははじめて知った。
あのとき哀れみだと思った美琴の目にひそんでいた憂いは、本当はひどいことを言ってしまったという罪悪感だったのだ。
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