第1章

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 そして同時に、勝手ににひねくれて、ひがんで学園すべてを憎んでいた自分を、沙理衣と彼女の母親にひどい仕打ちをしておいて、すくなくともいくらかはその原因をつくっておいて、そのことにまったく気づかなかった自分を、奈々はすこし恥じた。  母が若さをとりもどして華やかに装う裏で、泣いている別の母親と女の子がいたのだ。  勿論、それは美琴が言うとおり、奈々にもどうにもできないことだし、奈々の責任ではないことだけれど、そんなつもりはなくても、当人にもどうにもできないことで、互いを嫌いあったり傷つけあったりしてしまうときがあるのだ。  奈々はかるく息をはいて美術室の扉に手をあてた。もう泣き声は聞こえなかった。  冷たい雨がやんだと思ったら、廊下の窓のそとでは今度は木枯らしがおどっている。飴色の廊下は、それでも不思議とあたたかく感じられて、奈々は霞ヶ丘学園に来てはじめて、この場所をほんのすこし愛しく感じている自分に気づいた。                               終わり      2
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